ビスポークスーツの撮影は、重厚な店内で行われることが多い。
そこまで重々しくなくても、お洒落な室内やフォーマルな会場でのものを多く見かける。
そんな中、街中でビスポーク仕立てのジャケットを女性に羽織っていただき撮影に挑む。
モデルになってくださる被写体の方に「海外のインスタグラムに出ている、屋外で撮影したカッコいいスーツ姿の女性」のアイデアをいただいたのが脳内にあり、気軽に自分もやってみることにした。
しかし、ここは大阪である。
活気はあるが、街を歩くだけでシックな雰囲気漂うヨーロッパではない。
独特の魅力がある街だが、「おしゃれな」という形容詞は当てはまらない。
おしゃれスポットはあるにはあるが、わざわざ場所を選んでいる暇がなかった。
画像を見て下さる方に、テーラードジャケットの新たな魅力が「楽しく」伝われば、
それだけでカジュアルなニュアンスを含む「in大阪」の意味があると言える。
<ビスポークジャケット|レディース|in大阪、梅田>

撮影場所は大阪梅田、定冠詞THEが付く繁華街である。
JR大阪駅のコンコース内のカフェ。
最前列の席。
年末まであとひと月という時期で、かなりの人で賑わっている。
まわりの人の目が気になり、カメラを構えるのが恥ずかしい。
「そんなん、誰も気にしてないで、みんな自分の事で必死や」と、自分自身に都合のいいように語り掛け、多少ビビリながら周りの方々にご迷惑にならないようにシャッターを押す。
ん?
これがかなり楽しい・・
自分だけでなく、被写体の方も同様の感想を述べておられた。
スタジオ撮影では「主に静止した状態の美しさ」に重点を置いていたが、
街中ではそんなこと、どうでもよくなる。
「被写体の方の生き生きとした姿を撮る」の一点張りで臨むだけ。
気負いがないから楽しい。
特に背景に気を遣ったわけではないが、周りの人、モノ全てが被写体の方、ジャケットをうまく引き立ててくれているように感じる。
こんな形でクリスマスツリーが、エッジの効いたジャケットの「盛り上げ隊」になってくれるとは・・
逆に言えば、街中の喧騒を落ち着かせる役目をスーツ(ジャケット)が果たしているとも言える。

コンコースのカフェ、広々とした通路、
周りの人々の映り込みが画像に活気をもたらしてくれる。
人がいないガラガラ状態の通路では、躍動感が売りのRoadのジャケットの魅力が半減する。
周囲に溶け込みながら着る人の個性を放つ。
テーラードとは、そういうアイテムであり、街中で人が一層引き立つ役割を果たすものだと確信する。

<ビスポークジャケット|レディース|in大阪、中央区>

場所は変わって大阪中央区。
完全にオフィス街で、平日は仕事をする人達で賑わい、
男性は圧倒的にスーツ姿の方々が大半を占めるところで撮影。
この日は土曜日。
小雨が降り、落ち着いた感じ。
とある会合に向かう途中である。
人通りも少なめで、「誰も見てないな」と周りを気にせず堂々とシャッターを押す。
やはりオフィス街にジャケットはマッチする。
相変わらずスーツ姿の男性が多いオフィス街で、スーツまで着なくても、モデルの女性にビスポーク仕立てのジャケットを着ていただくことで、その方が本来お持ちの魅力を更に高めることができると改めて思った。
ジャケット単品はスーツよりも汎用性が高い。
レディースにすることで、「メンズとは違った毛色の華」になる。
街中撮影の醍醐味は「背景がもたらす、着用者とテーラード、両方の躍動感」に尽きる。
これは撮影スタジオで、どんなに被写体の方に動き回ってもらっても得られない「画」である。
背景の様々な色が思わぬ形で「刺し色」になり、画像にランダムな変化をもたらしてくれる。

意図した設計でその場に存在する、道路、木々の緑、整然とした街並みのすべてが、
作業場でいつも一人黙々と、作業場に引き籠り、一人黙々生み出すジャケットと調和している。
不思議な感覚。
テーラードが「着る人」を引き立てる。
街が「テーラードを着た人」を引き立てる。
気が遠くなるような工程数を踏むビスポークの仕立て。
悶々とした作業場から、活力ある日常へ。
ジャケットに羽が生え、外で生き生きと飛び回っているように見える。(単なる親バカだな・・)
被写体の方の自然な笑顔が、街中での撮影の成功を意味する。(いやっ、いつも笑顔でいてくださるので特別なことではないけれど・・)

<なぜスーツ(ジャケット)が、こんなにも街中で映えるのか?>
街中撮影がもたらすもの・・
スタジオでの撮影にはない解放感。
気負いのなさ。
写真の映え。
なぜこれ程までの楽しさを味わえたのか、深く考えた。
■ 構造における親和性
テーラードはオフィシャルな場所、人がいる場所で着用されるもので、
アイテム自体に派手さはない。
100年前から変わらない構造線。
片身で、前身頃、細腹(サイバラ)、背の3枚パネル。
胸ポケットと腰ポケットのほぼ決まったバランス位置。
そして何よりも欠かすことのできない、奥深い美しさを放つ紳士服地とそれを裏で支える付属。
縫製で何百もの工程数を経て形になる。
出来上がりは「洗練」「機能美」「フォーマル性」を兼ね備えている。
一方、ビジネスの中心地にある建築物にも「洗練」「機能美」「フォーマル性」が備わっていて、建築物に求められる「核」となる箇所が、テーラードの構造と親和性が高いことに気が付く。
■ 動きと共に、ライフスタイルの想像
街中で撮影することにより「動き」が生まれ、見る人に現場感をよりリアルに届けることができる。
自然な動作が、見る人に「これを着たらこうなる」と想像を促し共感に繋がる。
テーラードジャケット、その中でもビスポーク仕立てのジャケットは、時代を超越したクラッシックアイテムである。
都市に広がる建築物も、一度建設されれば長期に渡りその場で存在感を示す。
テーラードと街中、共通するキーワードは「仕事」
本質的に似たもの同士、この2つの掛け合わせで、「洗練」「機能美」「フォーマル性」をより強く目立たせる効果になっていると言える。

<街中での撮影を終えて>
「カッコいいスーツ姿の女性が出ている、海外のインスタグラムの真似をしよう!」から始まったものが、深い考察に繋がった。
JR大阪駅コンコース、大阪市中央区オフィス街、どちらも海外のお洒落な街並みとは全く異なる個性を持つ場所であるが、ビスポークスーツとの相性は抜群である。
さすが高級紳士服の生産拠点と認知されている大阪である。
自分は大阪在住なので、ちょっと誇らしい(≧▽≦)
テーラードは人が着て動きが加わると、人、テーラード、両方の魅力が一気に開花する。
静止ポーズが似合うとアイテムだと勝手に思っていたが、そうでもない。
今回の街中での撮影での一番の気付きである。
スーツ(ジャケット)は家で、独りでいる時に着るものではない。
必ず人がいるところで着るものであり、オフィシャル感が伴う。
スーツ(ジャケット)というアイテムが、どれだけ着用者ご本人と周りの環境に馴染んだものなのか?を街中での撮影を通して実感した。
これは、体験を通してしか掴めなかった学びである。
「海外のインスタの真似」から、今までにない、自分の作品のオリジナル性を伝える表現方法を手に入れた貴重な体験であった。
あーっ、楽しかったっ(*'▽')
またやりたいな!(^^)!

いつもモデルをしてくださり、
Roadの服を活かしてくださっているのは建築士のレイラさん。
画像編集もしていただいています。
下記のリンクがご本人のホームページです。