Roadのスーツはレディースにも関わらず、紳士服地を使用しています。
控え目な美しさがあり、機能性、耐久性の面で優れており、
スーツ作りに最適です。
紳士服地の特徴の一つに、「目を凝らさないと分からない柄」があります。
この薄グリーンの生地もそれに当たります。
「ウインドウペイン」と言われる窓枠のような大きな格子柄だが、
生地の地の色と、格子の色がかなり似ていて一見無地に見えます。
柄が目立たないことにより実用性が高まり、当番回数が稼げる。
目を凝らすと、調和のとれた色柄が展開されていることに気が付く。
年数が経っても飽きることがない。
着る人の個性を引き立てる優れもの。
このブログは「ウインドウペイン・スーツ」の製作を通して感じたことをまとめた記録です。


<じっくり見ないと分からない格子>
遠目では無地に見え、間近で見ると格子が見える。
この楽しみこそ、紳士服地が持つ魅力です。
年数が経っても飽きがこない。
永続性の一因だと思う。

<職人の仕事の醍醐味>
たまたまやる羽目になって続けてきた背広の縫製。
職人の仕事の醍醐味は「全ての仕事のプロセスを自分のものにできる」という事に尽きるのではないでしょうか。
オールインワンで完結し、作り手にとって達成感が半端ない。
最後に実際に着用していただく時、全ての苦労が報われる。

<ビスポークの肝となる芯据え>
紳士服上衣の工場で行われる芯据えと、
ビスポーク(フルオーダー)の芯据えの違いを
一言で表すなら「芯のゆとりの分量」です。
ビスポークでは既製服より多くのゆとりを入れる。
技術的には高速スピードの既製服とは違った技術となる。
難易度が高いが、やりがいは十分にあります。
芯のゆとりの多さが、
◇服の表面にダイナミックな見た目
◇独特の丸味
を形成します。

<オーダースーツの最高峰って?判別は?>
イージーオーダーとビスポーク(フルオーダー)、型紙は基本同じものを使えます。
ざっくり言えば、細かな部分(袖)以外は同じで通用する。
ただし「仕立ての内部構造」は大きく異なります。
大人数の工場では不可能なことをしなければならない。
ビスポーク(フルオーダー)は「長期に渡る形の維持」を求められる。
そのための手間を惜しむことはありません。

<柄合わせ・剥き出しのシルエット>
服の骨格はシルエットに当たります。
衿や袖を付ける前の状態でシルエットが浮かび上がる。
自ら生み出した「美の要」となるシルエットをフラットに見る。
意図したものになっていて当然だが、
シルエットの出来に安堵する自分がいるのも事実です。
シルエットが良いものは、多くの方に支持されます。
それは既製服、オーダー問わず言えることです。
細かなディティールばかりを取り上げられがちですが、
骨格(シルエット)の美しさは全てを凌駕します。

柄合わせには神経を遣う。
無地よりも縫う時間がかかる。
目立たない格子だからと言って、誤魔化しはできません。
正直さがものをいいます。
<レディース内ポケット>
「レディースやから内ポケット要らんやろ?付けんでええわ」
テーラーさんからレディースジャケットの依頼があった時、よく言われた言葉。
レディースでも本格的な内ポケット付いていたら、
見るだけで心が燃える人達もいると思うのだが、自分だけだろうか?
因みにRoadのジャケットは左右内ポケット付きになっています。
メンズの内ポケットほどの深さは設計上取れないが、
何かの時に役立てていただければ幸いです。
<まとめ工程>
ミシン工程が終わり、手で縫う工程を「まとめ」と言います。
ビスポークスーツの縫製では「まとめ」の量が半端ない。
手でまつる。手でステッチを入れる。手で釦ホールをかがる等。
手でやる意味は、形にエッジを効かせ独特の丸味を加え、格調を高めるためです。
「偽りのない手仕事」と言い切れる。

<パンツは基礎?>
「パンツは基礎。パンツしっかり縫えないと、ジャケットに行かれへんで」
昔、職業訓練校の先生に言われた言葉。
振り返ると、パンツはジャケットより圧倒的に工程数が少なく、
「縫製を覚える」という点で初心者が取り組み易いという意味だったと思う。
実際は工賃の点で、ジャケットより数をこなさないといけないし、
各テーラーさんの拘りいっぱいの仕様だと、数もさばけないしパンツは本当に大変である。
自分が思うに縫製に於いて、ジャケットとパンツは別物だと認識しています。

<パンツのバックスタイル画像がない理由>
パンツのバックスタイル画像を載せられない。
設計したパンツが、トルソーから大きく離れていて、
シワが多発しているからです。
着用者が実際に穿くとシワが消え、何の違和感も抱かずに眺めることができる。
「補正」というフィッティングの習得の賜物です。
素直に、先達の技術者の皆様に感謝するしかありません。

<カラフルなトルソーの意味>
「これはこういうコーディネートの提案ですか?」
カラフルなトルソーにジャケットを着せたものを指して質問されました。
「いやっ、あのう、テーラードって地味なので、ちょっとでも人の目に留まってもらいたいから…」
「でもレディースなので、ジャケットの下は制約なく、自由です」と答えました。
これがメンズのジャケットで、このトルソーに着せていたら、確かに違和感いっぱいかも知れない。

<目立たない格子柄でスーツを作った感想>
じっくり見ないと分からない柄の生地は、見る度に新しい発見をもたらしてくれます。
本当に見ていて飽きず、面白い。
「チェック柄は苦手」という方にも「遠目には無地に見えます」と確信をもって言える。
目立たない柄は、着る人の個性に染まる。
その人の本質を邪魔することはない。
「着る人の個性が活きるスーツ」を生み出す喜びを一生味わいたい。
素晴らしい素材と技が存在する、
ビスポークスーツという「宝島」のカテゴリーで…
鋭意努力するしかありません。

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